杉山尚子『行動分析学入門 ―ヒトの行動の思いがけない理由』
人の行動について知ろうと思い、こんな本を読んだ。
私はホントに根気がなく、生活の中でこうしようと決めたことでも2週間ほどしたらやめてしまい、自己嫌悪に陥るということを学生時代からずっと繰り返している。良さそうなメソッドを見つけて最初のうちは効果を発揮するのだが、慣れによるものなのか、少ししたら元に戻ってしまう。そんな自分なので、行動改善とかに関する本とか情報は興味津々なのだ。この本も、習慣付けとかに関する話題でインターネット上で紹介されていたので読んでみた。
行動分析学とは、ある行動の原因を考える際は行動の前後の状況変化(=行動随伴性)に着目するという点で特徴的な学問分野だ。例えば、本書の中でも紹介されている、こたつに手を入れるをいう行動を取り上げてみると、
手が暖かくない→こたつに手を入れる→手が暖かい
というように、「こたつに手を入れる」という行動の前後で状況が変化している。この変化により、行動が増えたり減ったりしているということだ。仮に行動の後でも手が暖かくならないのであれば、この行動はなくなるのかもしれない。このように、前後の状況の変化に着目することがポイントのようだ。状況変化に着目するため、個人の資質とかやる気は問題にしない。あくまで、行動がどのような状況で起こっているのか、ということを考える。うーん精神論とは違う科学的アプローチで面白いなぁ、と思った。
行動が繰り返されることを「強化」、行動しなくなることを「弱化」と呼ぶ。
強化・弱化ともに2パターンがある。
好子出現の強化・嫌子消失の強化、好子消失の弱化・嫌子出現の弱化、だ。
好子とは行動が強化されるときに出現する状況の変化(手が暖かくない→暖かくなる)で、嫌子は行動が強化されるときに消失する状況の変化(雨に濡れる→雨に濡れない)のこと。手が暖かくならなければ行動はなくなるし(好子消失の弱化)、手を入れても熱くて手汗が気持ち悪く感じるならやはり行動はなくなることになる(嫌子出現の弱化)。
ある行動を続けているということは、そこに強化の要素があるといえる。ただし、今後ずっと強化されるとは限らず、環境の変化によって強化している要素がなくなれば行動もなくなる可能性がある。
自覚できないような変化や何年か後に訪れる変化は行動に影響を与えないようだ。タバコの害を知っててもすぐに体に変化があるわけではないからやめるまでにはならないように。
行動を具体的に変える方法として、少しずつ目標を引き上げていくシェイピング、具体的な指示を出す、ということをも紹介されていた。「目指す行動までのプロセスが明確にすれば、行動が完遂される確率は非常に高まる」ということも書かれていて、これまでの経験からその通りだと思った。
面白いなと思ったのが、「消去抵抗」についての話だ。消去抵抗とは、状況が変化しないにも関わらず行動を続けてしまうこと(餌が出てこないのにボタンを押し続ける等)。この消去抵抗は、消去される前に、ある期間、部分強化(餌が出たり出なかったり)されていた場合の方が、連続強化(餌がいつも出る)されていた場合よりも抵抗が強くなるらしい。本書では、デートに誘うといつも応じてくれていた子がいきなり応じなくなるのと、たまに応じてくれていた子がいきなり応じなくなるのでは、誘うのを諦めるのが早いのはどちらの子か、という例が出ていた。わかりやすい。
こんな感じで、人の行動に伴う状況に着目し、そこから行動を変化させる糸口を探るという、とても理にかなっている気がする面白い学問だ。本書では強化・弱化など、タイトルの通り入門的なことを知ることができた。行動分析学については他の著者でも本が出ているので、いろいろと読んでみたい。