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池谷裕二・糸井重里『海馬 -脳は疲れない-』

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脳科学者・池谷裕二氏とコピーライター・糸井重里氏の『海馬 -脳は疲れない-』を読んだ。

 本書を、というか池谷氏の名前を知ったのは、確か以前に読んだ精神科医・樺沢紫苑氏の本で参考文献な何かに出てきていたのを覚えていたからだと思う。

本書では池谷氏と糸井氏の対談を元に作られたようで、非常に読みやすい。脳に関する様々な話を糸井氏が池谷氏からたくさん引き出しているという感じだ。脳の働き方などについては他の本でも見たような内容があったが、新たに知ることもたくさんあり、知的好奇心を満たされる本だった。脳が30歳からさらに発達していくということ、海馬は刺激を受けると発達していくということ、経験によって得られる記憶は「べき乗」でつながりを増していくということなど、とても興味深かかった。本書で述べられている脳に良いことなどを生活に取り込んで行きたいと思う。

 

一般的に脳は年をとるごとに劣化していくと言われているが、実は30歳や40歳になってからのほうが、物事のつながりを見つける力や論理的な考え方の能力は飛躍的に伸びることがわかっている。

大人が記憶が鈍ったように感じるのは、世界をマンネリ化したものとして、慣れた見方をしてしまっているので、刺激が少なく、記憶に残りにくい。逆に、子供は世界に対して白紙のまま接するので刺激が多く、世界が輝いて見えている。

 

実は脳は疲れない。疲れを感じるとしたら目とか、同じ姿勢をとり続けることによる身体的な部分だ。そのため、一旦考えることを中断するより、目や体を休め、考えながら何かをするほうが良い

 

脳はかなり主観的で、騙されやすいものだ。基本的に「安定化させよう」「混乱しないようにしよう」という働きがあるため、様々なことを自分に都合の良いように捻じ曲げて見るようになっている。普段の生活でも勘違いの元になりうるので、この性質は知っておくべきだ。

 

方法記憶=経験で得られる記憶(経験メモリー)がつながっていく進行は「べき乗」で起こるものであり、やればやるほど飛躍的に繋がりが増す

 

海馬は情報の取捨選択をして記憶するものを選り分けているが(=ふるいの役割)、感情の記憶には関係していない。感情の記憶は海馬の隣にある扁桃体が担っており、感情の記憶は生命に関わりがあるため強固である。海馬がない人がヘビに出くわして怖い思いをしても、「ヘビに出会った」という記憶はなくしてしまうが、「怖い思いをした」という記憶は残るため、ヘビに出会うたびに恐怖を感じるようになる。扁桃体がないと恐怖を感じなくなる。

 

海馬では神経細胞が次々に生み出されており、海馬の神経細胞が多いほど、たくさんの情報を同時に残そうと判断できる。つまり、海馬が発達していると記憶力が高まる

海馬は生存のために必要な情報を優先して残そうとする。また、隣にある扁桃体の影響を受けるため、好きなものや興味のあることは覚えやすいというのは正しい。勉強においては、脳をいかに騙して(=必要な情報だとか好きといった感情と結びつける)覚えるかということが重要になる。

 

新しい刺激にさらされている(海馬に刺激がある)と海馬の神経細胞の増える割合が加速していき、海馬が大きくなると処理する能力が増えるのでさらに刺激が増えるという好循環が生まれる可能性がある。勤続年数の多いタクシードライバーは海馬が比較的発達しているとの実験結果もある。

海馬にとって一番の刺激になるのは、「空間の情報」。つまり、旅などで新しい空間の情報を入れたりすることは海馬によい刺激となる。

 

神経細胞を活性化させるような成分を含む食べ物もあり、朝鮮人参は神経細胞の可塑性を増すと言われている。また、サフランはアルコールによる記憶力の低下を防いでくれる特徴がある。

 

「やる気スイッチ」とは側坐核のことである。側坐核はなかなか活動しないが、ある程度の刺激があると活動を始める(作業興奮)。つまり、「やる気がないと思っても、実際にやり始めてみるしかない」。

側坐核アセチルコリンという神経伝達物質を出す。これがやる気の元となるが、風邪薬や下痢止めに含まれているジフェンヒドラミンやスコポラミンはアセチルコリンの働きを抑えてしまう。

 

睡眠は海馬が情報を整理する時間であり非常に重要。眠らないと起きているときに情報の整理を始めるので幻覚が見えるようになる。睡眠は最低6時間は必要と言われる。

海馬の情報の整理はレミネセンス(追憶)と言われ、寝る前には情報を頭に入れておくとよい。

夢を見る刺激を与えるのもアセチルコリンであるため、風邪薬などを飲むと情報の整理ができない睡眠になる。

体が持っている毎日のリズムを崩すことが海馬に非常に悪影響を与える。時差ボケのような状況に陥るとストレスで海馬の神経細胞が死んでしまう。

 

やる気を持続させるには、自分への報酬もよいが達成感という快楽も効果的だ。達成感を効率的に味わうには、目標を小刻みに設定すると良い。達成するごとに快楽物質が出てやる気が持続しやすくなる。

 

扁桃体を一番活躍させる状況は、生命の危機などの状況だ。つまり、部屋をちょっと寒くしたり、お腹をちょっと空かせたりすると脳が余計に動かせることができる。

 

同じ視覚情報でも人によって認識するパターンが異なり、それが個性となる。日常においていかに新しい視点を加えられれば、認識できるパターンが飛躍的に増える

 

脳に可塑性があるという事実は、各個人に潜在的な進化の可能性があるということだ。あとは、その可能性の権利をするかどうか。すべては本人の意識の問題なのだ。

 

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手や舌に関係した神経細胞が非常に多い。指をたくさん使えば使うほど、指先の豊富な神経細胞と脳とが連動して、脳の神経細胞もたくさん働かせる結果になる。指や舌を動かしながら何かをやるほうが、考えが進んだり憶えやすくなったりする。

手や口を動かすと脳も動く。脳に発火させるための導火線のよう。

 

大人と子供の違いの最も大きな点は、子供は周りの世界に白紙のまま接するから世界が輝いて見えていて、大人はマンネリ化した気になってモノを見ているから、驚きや刺激が減ってしまうということ。刺激が減るから、印象に残らずまるで記憶が落ちたかのような錯覚を抱くようになる。

 

脳の中で「好き嫌い」を扱うのは扁桃体というところで、「この情報が要るのか要らないのか」の判断は海馬というところでなされている。海馬と扁桃体は隣り合っていてかなりの情報交換をしている。つまり、「好きなことならよく憶えている」「興味のあることをうまくやってのける」というのは、筋が通っている。

 

脳自体は30歳や40歳を超えたほうが、むしろ活発になると言われている。一見関係ないものとものとの間に、以前自分が発見したものに近いつながりを感じる能力は、30歳を超えると飛躍的に伸びる。

 

実は神経一個一個をバラバラにしてしまうと、ネズミにも人間にも差がない。ネズミと人間の差は関係性にある。神経細胞神経細胞がおりなす社会が異なる。ネットワークのパターンが異なる。関係の自由度も人間は他の動物と比べるととても高い。

 

神経細胞が増える場所もあり、海馬なんかがそう。ただ、普通は増えない。増えようが増えまいが余っている。

 

人間にとって重要なのが前頭葉。他の動物にもほとんどなく、サルでさえも前頭葉は小さい。サルの額が垂直ではないのは前頭葉がないから。前頭葉はモチベーションとか言葉を扱う能力とか、人間が人間たり得る欲望が詰まっている。人がコミニュケーションをしたがるのは、前頭葉の働きが大きい。

 

脳はいつでも元気いっぱいであり、全然疲れない。疲れるとしたら目だ。目の疲れとか同じ姿勢をとった疲れを補うことのほうが実践的だ。また、考えたまま違うことをするのがいい。

 

脳の主観的な性質は、普段の生活においても勘違いのもとにもなり得る。現実を、常に自分の都合のいい方にねじ曲げて、自分が混乱しないようにものを見たがる。

 

単なる暗記(意味記憶)=暗記メモリー、ノウハウのような記憶(方法記憶)=経験メモリーとすると、30代からは脳が経験メモリー同士の似た点を探すと、『つながりの発見』が起こって、急に爆発的に頭が良くなっていく。

 

方法を学んでいく学び方の進行は「べき乗」で起こり、やればやるほど飛躍的に経験メモリーのつながりが緊密になっていく。脳で起こる反応は直線グラフでは表されない。

 

感情の記憶に海馬は関係していない。海馬のない人がヘビに出くわして「怖い目」にあったとしても、ヘビに出会ったことそのものは憶えていない。しかし、それ以降、会うたびに怖いということは感じるようになる。

 

感情をつかさどる扁桃体の「感情」の記憶というのは、より本質的なもの。「怖いと思ったからヘビから逃げる」という記憶は、生命に直接関係のあることだから、より一層強固にできている。

 

扁桃体がないと、まず恐怖心を感じなくなる。サルの扁桃体を壊してしまうと、サルは犬に対してもヘビに対しても平気で近づいていき、そこで噛まれて痛い思いをしても、憶えていない。噛まれたという記憶を海馬が作り上げても、嫌悪感はあとに残らないから、懲りずに何度も近づいて傷だらけになってしまう。

 

人間が同時に意識にのぼらせることができる記憶(ワーキングメモリー)の限界は、わずか7つ程度=マジックナンバー7

 

記憶は海馬の中に蓄えられているわけではない。海馬は膨大な情報の要・不要を判断して、他の部位に記憶を蓄える=海馬は記憶の製造工場

海馬の役割は情報の「ふるい」

 

海馬では細胞が次々と生み出される。

海馬の神経細胞の数が多ければ多いほど、たくさんの情報を同時に処理できる=海馬が発達すれば、たくさんの情報を同時に残そうと判断できる

 

海馬が大きく発達していると記憶力が高まるということは、実験によってずいぶんと確かめられている。

 

海馬は生存のために必要な情報かどうかを判断して、生存に必要なものを記憶する。

 

お勉強の丸暗記をしたいと思えば、そのままでは脳が欲しいものではないわけだから、いかに海馬を騙せるかが重要になってくる。

 

好きなものを覚えやすいというのは「扁桃体を活性化すると海馬も活性する」という方向で説明することができる。

 

普段から人はどうやって物を覚えるのか? 一つは、好き嫌いといった感情が絡むと覚える。 扁桃体が絡むと覚えやすいというのが動物的な覚え方。

 

新規な刺激にさらされている人= 海馬に刺激がある人は 細胞の増えていく割合が加速していく。 そして、海馬が大きくなると処理する能力が増えるので、さらに対象にする刺激が増えるという、ポジティブな回転が起きるのではないかと考えられる。

 

旅が頭を良くするという可能性はありえる。 海馬にとって一番の刺激になるのが、まさに「空間の情報」である。

 

朝鮮人参には、神経細胞の可塑性を活性化(記憶力を増す)する成分が含まれている。

 

「やる気」を生み出す脳の場所があり、側坐核という。 側坐核神経細胞は厄介なことになかなか活動してくれない。

どうすれば活動を始めるかと言うと、ある程度の刺激が来た時だけである。 つまり、「刺激が与えられるとさらに活動してくれる」。

だから、「やる気がないなと思っても、実際にやり始めてみるしかない」のだ。

 

側座核は海馬と前頭葉に信号を送り、アセチルコリンという神経伝達物質を送る。この物質がやる気を引き起こす。アルツハイマーの患者はこの物質がすごく減ってしまう。

 

身の回りにはアセチルコリンの働きを抑えてしまうものが実はたくさんある。一番顕著なのは、から風邪薬、鼻炎の薬、下痢止めの薬など。アセチルコリンは腸の働きを活発にする物質でもあるので、下痢止めは腸の働きを抑えると同時に頭にも効いてしまう。

 

風邪薬を飲むと眠たくなるのもアセチルコリンの働きが抑えられるから。アセチルコリンの働きを抑えるのは、ジフェンヒドラミンやスポコラミンなど。

 

海馬は「今まで見てきた記憶の断片を脳の中から引き出して夢を作り上げる」という役割を担っている。

 

海馬は記憶を引き出して情報を整理している。睡眠は、きちんと整理整頓できた情報をしっかり記憶しようという、取捨選択の重要なプロセスだ。つまり、「眠らない」というのは海馬に情報を整理する猶予を与えないことになる。

 

睡眠時間は最低でも6時間ぐらいは要ると言われている。強引に睡眠を奪ったとしたら、海馬は記憶の整理整頓を今度は起きている間に始める。つまり、幻覚が見える。

 

毎日のリズムを崩すことが海馬に非常に悪影響を与えることもわかってきた。時差ボケのような状況に陥ると、ストレスで海馬の神経細胞が死んでしまう。

 

眠っている間に海馬が情報を整理することをレミネセンス(追憶)という。勉強していてずっとわからなかった所が、ある時から急に目からウロコが落ちるように分かる場合がある、それはレミネセンスが作用している場合が多い。

 

レミネセンスを生かすには、眠る前に一通りの仕事をやってみる(=脳に情報を入れておく)という工夫をすると良い。

 

夢を見る刺激を与える物質もアセチルコリン。そのため、風邪薬などを飲むと、情報が整理できない睡眠になってしまう。

 

死にゆく神経細胞を止めることのできる物質らいくつか発見されている。その一つはNアセチルシステインという酸化防止剤で、アメリカでは栄養補助剤として薬局で売っている。

 

酸化防止剤は肌の老化にも抜群の予防効果があるはず。酸化というのは、ある意味、人間にとっての永遠の課題というか、酸化との戦いは人間の進化のテーマなのだろう。

 

自分に対する報酬もやる気を生み出すが、内発的な達成感もやる気を生み出す。達成感がA10神経という快楽に関わる神経を刺激して、ドーパミンという物質を出させ、やる気を維持させる。

 

達成感という快楽を味わうには、「目標は大きく」ではなく、「目標は小刻みに」と心掛ける方が上手くいく。「今日はここまでやろう」「一時間でこれをやろう」と実行可能な目標を立てると、目標を達成するたびに快楽物質が出て、やる気を維持しやすい。

 

自分に適した目標を立てるというのは本当に大事。自分が今どういうレベルにいるのかわきまていないと、非効率にものごとを追求してしまう危険性がある。

 

学習の過程でより多くのミスをしたサルのほうが将来的には記憶の定着率がいい。失敗を繰り返さないと、あまり賢くならない。

 

脳を働かせる細かいコツはたくさんある。ブドウ糖を吸収したほうが良いとか、コーヒーの香りが脳の働きを明晰にするなど。

 

扁桃体を活躍させると海馬も活躍する。扁桃体を一番活躍させる状況は、生命の危機状況であるため、ちょっと部屋を寒くするとか、お腹をちょっと空かせるという状態は、脳を余計に動かす。

 

同じ視覚情報が入ってくるにも拘らず、認識するパターンの組み合わせが違う。だからこそそれぞれの人の見方に個性が出るわけだし、創造性が生まれる。そう思うと、日常生活においていかに新しい視点を加えることが大切かということが分かる。

 

頑固ということこそ、「頭の悪い人」の定義の一つかもしれない。

 

脳をあまり使わないままの一生を送る人と、手塚治虫さんのように使い尽くす人と、その違いはきっとほんのちょっとした道の枝分かれ。脳を使いまくるようになるきっかけは人によって違うが、ただ少なくとも、「脳は使い尽くすことができる」と気付きさえすれば、どんな年齢であっても、脳を使い尽くす方に枝分かれできる。それを認識するかしないかで、ずいぶん違う。

 

ある時にふと、「これは面白いなぁ」と思って、自分の視点に1つ新しいものが加われば、脳の中のパターン認識が飛躍的に増える。それを繰り返せば、人の考えというのは驚くほどおもしろいものに発達する。

 

何歳になっても、新たな経験メモリーを加え続ければ脳はそこから「べき乗」で考えの組み合わせを増やせる。

 

経験メモリーは実際に試した手順だけを憶えるものなので、実行したらその分だけ経験メモリーの貯金は増えるし、経験メモリーの貯金が増えたら、また次にやれることが増えるという、いい循環になる。

 

「俺はバカだから」ってセリフを言った途端にすべての可能性が終わってしまう。言葉によって自分をそこに固定したことになるから、そう考えると、言葉ってすごく厄介なものである。いい意味でも悪い意味でも、言葉って呪いみたいなもの。

 

心とは脳のプロセス上の産物に他ならない。つまり、心は脳が活動している状態を指す。物体ではない。車を部品に解体したところで「スピード」というものがどこにも現れないのと同じことである。

 

脳に可塑性が存在するという事実は、個人が潜在的な進化の可能性を秘めていることを意味している。当面の問題は、自分に備わった可能性の権利を個々が行使するか否かに絞られる。すべては本人の意識の問題なのだ。

 

海馬 脳は疲れない (新潮文庫)

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